2015年2月24日火曜日

麹菌の多様性

写真は、今年のホームメイドのドブロク。
今年は、今までで一番うまく出来た。しっかりと辛口で酸味も程よく、アルコール度数も高め(たぶん12-13℃ぐらい)。このエントリを読んでくれてる方へも、写真だけで、飲んでもらえないのが残念なぐらいだ。うまく出来ると、ついついあげてしまい、我が家で飲む量が減ってしまうところが難しい。また、築54年の我が家(借家)に住む乳酸菌も頑張ってくれた。これは玄米豆乳ヨーグルトの経験から察しがついたことだった。

毎年、原料や仕込みを少しずつ変えている。自分用のメモも兼ねて、今年の特徴は、2点。例年以上に、酛(もと)作りをこれまで以上に時間をかけ慎重にやった。酵母はパン用を使ったものの、これまでは2〜3日ぐらいの酛作りを、今年は1週間かけてみた。来年はもっと時間をかけて落下酵母菌だけでやってみようかとも思う。もうひとつは、仕込み水を極力少なくした。発酵過程で米はどんどん分解され液化していくが、これまではかき混ぜやすいようにとついつい水を多めにしてしまっていたところをグッとこらえて、液化を待ちながら、三段仕込みした。三段仕込みというと、「へぇー、スゴイね」という人がいるが、ちょっと違う。一度にドカーンと仕込むより、一回一回の蒸し米が少なくなるので(留め添えで半量ぐらいか)、差ほど大きくない蒸し器で出来るし、狭い台所でも扱いやすい。もちろん、三段仕込みの方が発酵は安定する。スケジュールを組んだり、回数が増える分やや手間がかかるが、私にとっては一発仕込みより三段仕込みの方が現実的にやりやすいのだ。これもアスペルギルス・オリゼ(黄麹菌)のおかげということで、先のエントリに続き、麹菌の話しを続けよう。

種麹屋さんの俗称を「もやし屋」さんという。麹菌の芽が出るイメージからだろう。で、もやし屋さんの仕事は、種麹菌を培養して販売するだけではない。レクチャーをしてくれた河内源一郎商店の池田社長によると、河内源一郎商店が保有する種麹菌は、数百種類だか数千種類だかに及ぶと言うから驚いた。正確な数字を聞いたのだが、忘れた。でも、「えー」ってぐらい多いということは分かってもらいたい。その数を発見し、管理しているということだ。もー、ビックリ。

ビックリするぐらいの種類数を保有していて、その中から商品として販売しているのは10種類など(これも正確な数字を忘れたが、だいたいそのくらい)。つまり、保有しているほとんどの種麹菌は、「将来」必要になるかも知れない控え選手だ。

先に書いた、黒麹、白麹、黄麹の種菌と言っても、細かくはそれぞれ相当な種類があるということも言える。例えば、黄麹菌の「アスペルギルス・オリゼ」という学名は、「アスペルギルス」が属名で、「オリゼ」が種名なのだが、厳密には、この下にも名前があるということになる。そして無論、全ての麹菌にはそれぞれの個性があるのだ。

例えば、地球温暖化やプチ氷河期が到来したとしても、その環境により適した麹菌があるのかも知れない。また、同じオリゼ(黄麹)ひとつ取ってみても、日本酒、味噌、醤油、酢などなど用途やテイストに応じて、それなりの種類がある。また、麹は米麹だけでなく、麦麹や豆麹だってあるし。もやし屋さんは、日本に10社ぐらい点在してあるらしい。(これも正確な数は忘れたが、だいたいそのくらい) 各々のもやし屋さんはその地域の気候や用途に対する適性を持った様々な種麹菌を持っているのだろう。そう思おうと、心強くなるし、麹菌の多様性にも驚く。

さて、麹のレクチャーを聴いていて、ひとつの疑問が湧いた。

通常、同じ商品(例えば○○醤油)には同じ麹菌が使われる。ということは、「その醤油蔵で種麹菌を培養すればいいのではないか?」と思った。もしもそうすると、「その醤油蔵が、もやし屋さんから買う種麹菌は、初回とその後培養がうまくいかなかったときだけでいいのではないか?」と思ったのだ。そのレクチャーを聴いていたとき、たまたま隣の席に、八木沢商店の社長(若旦那)が座っていたので、きいてみた。すると、「それはしません。理由は、万が一だけど、リスクがあるからです」とのお答えだった。少し詳しく書こう。有用な麹菌に似た麹菌で、アスペルギルス・フラバスというのがいる。この麹菌は、アフラトキシンという発がん性物質を生成するらしいのだ。今の日本ではほとんどないらしいのだが、万が一でもその悪玉麹菌が入り込むリスクを避けるために、毎回、仕込みの度に、新しい種麹菌をもやし屋さんから購入するのだと言う。

麹菌または広く菌の世界は何と多様なことか。現役で活躍している多数の有用菌の他に、こうした悪玉菌もいる。そしてさらに、将来あるかも知れない出番を待っている麹菌もたーくさんいるのだ。そう思いを巡らすと、人間も決して画一的になってはいけないと、改めて思う。将来どんなことが起こるか分からないのだから、多様であることこそが大事だよなーと、麹菌の世界に触れて思うのであった。

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