2008年2月6日水曜日

海ぶどうの思い出 〜 その2

アラミノスのおばあちゃんとの出会いだけで終わってしまった前のブログ。読み返したら、大事なことを書くのを忘れたことに気がついた。まだ海ぶどうのことではない。その煙草の吸い方だ。

1本の煙草をしばらく吸って、短くなった長さ3〜4cmぐらいの火のついた(くわえ)煙草を、起用に口と舌を動かして(手を使わずに)、フィルター側と火のついた側をひっくり返す。

と書いた。フィルター側を吸うのは至極当たり前。でも、火のついた側を吸うのはかなり特別でしょ。この説明を忘れた。まず、火のついた側を吸っても舌を火傷するようなことはない。もちろん、それにはかなりの熟練が必要だと思うが。 このおばあちゃん、要は煙を直接吸いたいのだ。そのへんのヘビースモーカーとは訳が違う。このあと、私も実際に試してみたが、それは両切りの煙草なんてもんじゃない。両切りの煙草の煙はフィルターはなくとも、煙は葉の詰まった煙草を通って冷やされる。煙を直接吸うとは、燃えて出た煙がそのまんま。かなり熱くキツイ。(危険かつ身体に悪いので絶対に真似をしないでください)それだけでも、このおばあちゃんの豪傑さを感じてもらえるだろうか。

さて、話の続きに戻る。
おばあちゃんと私は、海まで500mほどのところでバスを降りた。お迎えの人が待っていた。おばあちゃんの荷物をその人が持って3人で歩き始めると、おばあちゃんの説明が始まった。「ウチの旦那は、校長先生だ。そして先生も何人か一緒に暮らしてる」みたいな話。その家に着くと、広い敷地に平屋の家が3棟ぐらいあっただろうか。特別お金持ちには見えないが、緑も多く全てがきれいに整理整頓されてある、とても気持ちのいい家だった。エアコンはなくとも、風通しのいい中庭に人が集まれるように大きなテーブルが置いてある。着いたのは、午後3時か4時ぐらいだったと思う。お茶を頂きながら、おばあちゃんと話をしているうちにしばらくすると、子供たちによる炊事が始まった気配。そう、この家には5〜6人の子供たちも暮らしている。おばあちゃんに尋ねると、家が(学校から)遠い子供たちが、いわば下宿しているとのこと。この子たちは、この家の掃除・洗濯から炊事など全ての家事をやりながら、ここから学校へ通っている。そんな子供たちにおばあちゃんは、結構厳しい。「あそこが汚い。すぐに掃除しなさい」「この洗濯物、ちゃんと汚れが落ちてないじゃないか」。私にも、「この子ら、全く働きが悪い」などとぼやく。しかし私には「まぁまぁ、お手柔らかに」などと無責任なことは言えない。そうこうしているうちに、背筋の伸びた大柄な校長先生ご帰宅。そして、あとから先生方も到着し、夕食が始まった。昔の話だ。携帯電話などある由もない。私は、突然の異国からの客だが、それを特別驚かれることもない。「ん〜、(おばあちゃんが)バスの中で知り合ったんだ」ぐらい。しかし食事中の会話は、日本の教育から始まっていろいろ盛り上がった。毎晩何時間も話した記憶がある。そうなんです、あまりの居心地のよさに、私はこの家に3日ぐらい泊めてもらったのです。

その毎晩の夕食時に必ずテーブルの上にあったのが、何を隠そう「海ぶどう」。初めてだった。「これは何ですか?」と尋ねると、「seaweed(海藻)」という答え。今思うと、あんなにおいしい海ぶどうは、これまでで最初にして最後だ。粒が大きく、口の中でプチっとはじける食感、粒の中からあふれるトロッとした濃厚な汁。そしてちょうどよくからまった海水がいわば調味料。たまらない。最初に「seeweed」と聞いたけど、それが海藻とはにわかに信じられなかったので、辞書をひいて他に意味がないか確認したりもした。しかし、私の感動は、ここの家の人たちには通じない。その海ぶどうは、大きな皿にこんもりと無造作に盛られていて、ここの人たちにとっては、何も特別なものではない。そうだな、日本で言えばキャベツの千切りが山盛りもってあるぐらいの感じ。食事が終わると、だいたい余る。そしてそれは捨てられ、翌日には新しいこんもり。食べても感じるが、これはまずは新鮮さが第一だ。思えば、「海ぶどう」と称されたものを、ここ東京でも何度か食べた。たぶん、海ぶどうも種類があるのだろうが、アラミノスの海ぶどうとは天と地の違いだ。日本なら、沖縄になるのだろう、それは間違いなく、沖縄で採れたてのものを食べないといけない。沖縄には行ったことがない。海ぶどうを食べに、沖縄に行くか。もう私のことを憶えている人は誰もいないだろうアラミノスを再び訪れるか。アラミノスを去ってから、2〜3年は手紙を書いた。ありがたく返事もときどきくれた。

とまぁ、やっとこさ「海ぶどう」にたどり着いた。知人からは、「オマエは、話が長い」とよく言われる。自他共に認める「話が長い」。長いついでに、もう少し、このアラミノスの家でのことを書きたい。それは次に。